結婚を機に4代続く芦野の美容室を継ぐことになった大島陽子さん。美容師の勉強と子育ての両立に奮闘する日々を経て、今では大島美容室の美容師として、ここ芦野で活躍中。江戸時代から続く髪結い店の5代目が今日もお店でお客さんを待っています。
スキー場での出会いから美容師修行の世界へ
私が芦野に嫁いできたのは今から16年前で、大島美容室の5代目になります。20歳のときにお嫁に来た3代目のおばあちゃんが94歳でなくなったんですけど、その2代前からお店をやっているので、江戸時代から続いていたんです。昔は髪結いと呼ばれていた頃ですよね。
高校を卒業後、当時スノーボードが流行っていたんで、スノボーを滑れる環境にいたくて那須のスキー場を運営する会社に就職したんです。20代はスノボーをやりに1ヶ月間ニュージーランドを訪れたり、あちこち行きましたね。それでスノーボード指導員の資格はもっているんですけど、会社は辞めて普段は実家の飲食店で働きながら、冬場はスキー場でバイトをするという生活をしていました。そのとき、夫がスキースクールのインストラクターとしてスキー場に来ていたのが出会いのきっかけです。
それで付き合いはじめてから、徐々に美容師になってほしいような感じのことを言われるという(笑)1年後には実家を継いでもらいたいと正式にいわれて。「やったこともない美容師なんて、無理だよ」って、当時はけんかもしましたよね。でももう25歳だし、腹をくくってやろうかなと。それで結婚を決めたとき、勉強のために宇都宮にある美容師学校に通うことになりました。周りの生徒さんは美容室で働いている人たちばかりだから、専門用語も道具のことも分かるけど、自分は全く知らない中でのスタートだから、もう訳が分からない(笑)。しかもそのタイミングで子供もできてしまったものだから、本当に大変で。つわりと闘いながらの面接でしたしね(笑)
生まれた長男を保育園に預けて学校に通う日々を3年間続け、最後に国家試験を受けたんですが、これが見事に落ちまして(笑)「落ちる人なんていんのかい?」なんて周りに言われて。その後、もうここで受かるだろうというタイミングでまた真ん中の女の子ができちゃうんですよ。実技はパスしていてあとは筆記だけという試験の5日前に切迫早産になってしまい(笑)結局2人目が生まれてから合格しましたね。
大島美容室の五代目としてゼロからのスタートに立つ
お店に立つようになって、お義母さんの手伝いから始めました。
学校でパーマの巻き方やカットはたくさん勉強してきたので、少しずつお客さんを担当させてもらいました。 嬉しかったのは、お客さんに「ここで髪をお願いするの、あんたで3代目だよ」っていわれたんです。お客さんが芦野にお嫁に来たとき、結婚式でばあちゃんに髪をつくってもらって、その後お義母さんにバトンタッチして、さらに私。「まさかあんたにやってもらうとは思わなかったよ」っていわれたんです。そういう人が何人もいたんですよ。そのときはやっててよかったと思いましたね。ばあちゃんは77歳くらいまでお店に立ってたんですけど、それから途切れていない。だから、今でもこうしてお店に来れることがありがたいと言ってくれるんですよね。
昔からのお客さんが多いですから、髪をお義母さんにやってもらいたいというお客さんはもちろんいます。会って話したいですからね。その一方で若い人にやってもらったほうが若くなるんじゃないか、というお客さんもいるんです。それはお義母さんがお嫁に来たときも同じことをお客さんから言われたそうです。女性はいくつになっても乙女心がありますからね(笑)最近は常連さんだけでなくて、ママさんバレーをしている自分のお友達が来てくれるようにもなりました。あと同級生のお子さんも七五三のときに来てくれます。 今でも講習に通ったり、着物の着付けを習いに行っていますが、美容業も着付けも終わりはないですよね。これで完璧というのはないです。
芦野だからできることをこれからも続けていく
うちのお客さんは70〜80歳代の方が多いです。だからカットはしっかりとカットして、パーマもしっかりとあたっているというオーソドックスなものが基本なんです。でも若い子が行くお店だと、ゆるふわなセットとか、もっと多様ですよね。今の若いお客さんのセットって、かっちりとやらないんです。結婚式でもそうですけど、自分で上手にできちゃう人もいたり。でもお義母さんの時代の美容師さんは日本髪つくるのがすごく上手なんですよ。昔はしっかりと髪を結ってた時代だから。逆に今の美容師さんはほぼできないの。だから七五三の桃割れという髪型をつくるために、うちに来てくれるの。今しかできないから絶対やったほうがいいよって、自分でも言うし。それでうちの同級生の子はみんな来てくれます(笑) 日本髪はお義母さんに教わったほうがいろいろと勉強になることがありますね。
芦野はやはり歴史が古いなって思います。私の地元はもっと上(那須高原)の方なので、移住者も多いですが、ここはオール地元で濃い(笑)芦野はご近所さんも近いし自然が豊かで、子育てするにはいいところですよね。私も那須町が好きだから地元から出ていかなかったですし。東京にも遊びに行きましたけど、やっぱり自分が住むところじゃないかなって思っていました。なんていうか、那須は住んでいてラクなんですよ。友達はいいところだねっていってみんな来てくれるし、言うことないでしょ。 自分のあとを子どもの世代に継がせることは、今は考えていないです。自分がすごく大変だったから。でも素直に美容師をやりたいって言うならいいと思いますけど。まだ先のことは分からないです。いま自分の代にできることを精一杯やるだけだと思っています。