芦野を訪れた人に、その魅力を伝えている案内ボランティア「遊行会」。今回、四季を通じて芦野を見つめ続けるガイドの皆さんに、発足の経緯や芦野の魅力についてお聞きしてきました。松尾芭蕉が句を詠んだ遊行柳など、長い歴史のなかで多くの人々の往来を見つめてきた里山の魅力とは一体?
芦野の歴史を知ることからはじまった遊行会
大場会長:遊行会の活動のはじまりは、今から17年前です。もともとは石碑などを調べる公民館の活動からスタートしました。それはほぼ完了しましたが、せっかくだから訪れた人に芦野の歴史を案内しようということで、史跡の調査研究会を、そのまま遊行会という形で継続することになりました。有名な遊行柳を訪れる人がいますが、それを説明してくれる人が誰もいないのは残念だと思いまして。
平山:最初は案内するというより、自分たちの住んでいる土地がどういう所なのか知りたいという思いがありましたね。お地蔵さんとか供養塔とか、すごい古い時代に作られたということが分かってきて興味深かったです。それを皆さんにも知ってもらいたいと思いました。
藤田:現在実働できるボランティアは約10人くらいですが、会員はだいたい20人くらいで推移していますね。公式なガイドの受付は那須歴史探訪館が行っていますが、遊行会の事務局に直接お問い合わせをいただくケースと2通りあります。団体から個人の方まで予約が入ればその時スケジュールが空いている人が対応しています。
通常は芦野を大体2時間半から3時間半くらいで回るコースを案内しています。当然お客さんの要望に応じて短縮したりと、柔軟に対応はしています。
高藤:芦野の宿巡りを中心に案内することが多いですね。個人ではそれこそお一人でもガイドしますよ。
藤田:会長はお寺さん(揚源寺住職)ですから、お参りに来た方をそのままご案内するなんてこともありますよね(笑)
大場会長:そうですね(笑)
藤田:それから近くの芦野温泉は年配のお客さんが多いですから、温泉に浸かってゆっくりしたり、健康維持のために歩きたい人もいるんですよ。それで私たちが案内することもありますね。何回も芦野に来ているベテランの方は、もう案内はいいからといって自分で行く人もいたり(笑)
もちろん、若い人たちにももっとたくさん芦野に来ていただきたいと思っています。
旅の目的が多様化し観光地でない魅力を求める人も
——最近は芦野を訪れる人が増えているという話をお聞きしましたが。
大場会長:そうですね。最近はリュックを背負って歩いている方をよく見かけますね。お客さんが多くなった理由のひとつとして、目的が多様化していると思うんです。五街道を制覇しようと目標を立てて歩いている方や、松尾芭蕉が奥の細道で歩いた道をたどる人、自然探索に来る人。それから健康を目的とした方など、仕事をリタイヤした高齢者が増えていることも要因かもしれません。
藤田:「関東ふれあいの道」が整備されて、栃木県内のコースでも芦野・伊王野エリアが初心者にも歩きやすいという認識も広まっている気がします。ただ、コース上の国道294号沿いよりも脇道に魅力がある場所も多いですから、私たちみたいな地元の人がおすすめの散策コースを紹介できたらと思っています。
大場会長:よく芦野を訪れた方がおっしゃるのは、歩いていると心が休まるというんです。山が低くてコンパクトにまとまっている町ですから。
藤田:さりげなくお客さんに旅の目的を訊ねると、既存の観光地にはもう飽きたというんですよね。だから、行ったことがない場所に行ってみたいという思いがあるようです。そういう意味で、芦野や伊王野は新しく発見できる場所なのかも知れません。
高藤:美しい里の景色はもちろん、松尾芭蕉が句を詠んだ遊行柳、隈研吾先生が設計した「石の美術館 ストーンプラザ」や「那須歴史探訪館」など、見どころがありますから、よくご案内しています。
大場会長:目的が多様化していますから、それこそ山城が好きな人が御殿山を訪れたりもします。
芦野を案内する人、訪れる人、里山での出会いが人をつなぐ
——最後に。お集まりの皆さんに芦野とガイドの魅力をお聞きしてもいいですか。
大場会長:まず、お話しを聞いてくれた方に満足してもらい、再度芦野を訪れたいと思ってもらうことが一番ですね。
平山:芦野はあまり開発されずに昔ながらの景観と風土が残されていることが魅力だと感じています。ですから、芦野の歴史について深く知ってもらえたらと思っていつも案内をしています。
篠原:私は芦野出身なんですが、遊行会に入って2年になります。それまでに一人旅が好きで旅先でよく現地の案内ボランティアさんのお話しを聞いていました。しかしふと考えると、地元である芦野のことをあまり知らなくて、勉強したくなったんです。芦野は黒磯や那須高原からアクセスする道が限られていて、日本のチベットのような場所だと勝手に思っていて(笑)もっと勉強して多くの方に芦野を紹介していきたいですね。
三森:私はまだ会議に参加して4回目の新人なんです。那須町にも湯本や黒田原、芦野、伊王野に各ボランティアガイドがありますが、大場会長からお誘いの連絡を受けたので、芦野でやってみようかなと。ガイドの経験がまだないので、これから皆さんとご一緒して勉強していきたいです。
高藤:芦野はまず歴史がありますよね。いろんな説がありますが、なかには古代から人が住んでいたという人もいますし。古いお寺があり、草木があり、現代的な建物もある。さまざまな角度から芦野を紹介することができます。ある人が言っていたのは、芦野の里が女性の胎内のような安らぎがあるというんです。低い山々に囲まれていて、強い風が吹かない。穏やかな空気が流れていて、自分自身もガイドしながら癒されちゃうところがあります。
荒井:私も芦野に住んでいますが、地元にいるとあまり魅力って気づかないんですよね。でも勉強してみると長い歴史のなかでいろんなエピソードがあることが分かってきました。ですからお客さんにはネットで調べられることよりも、小ばなしとか地元に伝わるエピソードをお話することを心掛けています。
藤田:ガイドをやっていると、芦野の魅力は地元の私よりもお客さんに教えられることが多いです。よく冗談で芦野にはコンビニもないですと言うんですが、逆にお客さんから「コンビニがないからいいんです」と言われたり(笑)。地産地消とか、スローライフを志向する人にはそこが芦野の魅力なんだろうと思いますね。
立石:私は横浜出身で、芦野についての知識がゼロの状態からはじまったんです。よそから来たから分かることもあると思うんですが、まず芦野の人は素晴らしいですね。先祖の歴史を尊重して、今もそれを誇りに人々に伝えようとしています。芦野温泉のお湯はいいし、300年続くうなぎ屋さんが今も営業しているのもいい。高齢者になると、あまり人が相手にしてくれなくなりますが、ガイドをやっているとお客さんに本当に感謝されます。それが嬉しいですね。会長をはじめ私を相手にしてくれて、本当に感謝しています(一同笑)
——なるほど(笑)皆さんにとってもガイドが人と触れ合う楽しい場になっているんですね。本日はありがとうございました。
一同:ありがとうございました。